sweet magic
麗らかな日差しの差し込む午後。
ナルトは自分の部屋のベッドの上に転がったまま、差し込む日差しが奏でる睡魔の誘いに抗えきれず、うつらうつらとしていた。
任務も何も無い1日は久しぶりで、ベッドの上の居心地の良さから抜け出せない。
「……」
たまにはこんな1日の過ごし方も良いか、そう思った瞬間、突然部屋の真ん中からボワンという音と共に真っ白い煙がモクモクと立ち昇る。
「わ!!」
ナルトは驚いて横たえていた半身を起こす。
「ナールトv」
薄れていく煙の中から、ニッコリと笑みを浮かべたカカシが現れた。
「ど…どうしたんだってばよ、先生」
「んー、ダメでしょ。忍者たる者こんなことで驚いちゃ」
大きな瞳を落ちてしまいそうなくらい大きく見開いたナルトにカカシは言う。
「だ、だって…」
いきなりこんな現れ方をしたら誰だって驚くってばよ。ナルトはカカシにそう怒鳴る。
「驚いても態度に現したらいけないでしょ」
そう言ってカカシはナルトの額にチュッとキスをする。
「な、何、先生!どうしたんだってばよ」
それだけで真赤になってナルトは慌てて俯く。
「ていうかさ、今日の俺はセンセじゃないの」
「え…?」
不思議そうに見上げるナルトにカカシはそういって両手を広げてる。
「…?」
「ワカンナイかなぁ?今日の俺はセンセじゃなくってマ・ホ・ウ・ツ・カ・イ」
「…マホウツカイ?」
「そう」
再びカカシは目を細めて微笑んで手元に持っていた星の付いたスティックを振りかざす。
「今日はね、お前の願いを叶えに来たんだよ」
そう言ってカカシは身に纏った漆黒のマントを翻す。
少しだけでもお前が良いと思える世界をあげたくて。
カカシは優しい眼差しをナルトに向ける。
今はこんな、お前にとっては針の筵のような辛い世界でしかないけれど。
幻でもいい。一瞬の間に見る永遠をあげたくて。
だって、俺は嬉しかったから。
お前と出会えたことでどんなに俺が幸せだったか。
それはエゴでしかないけれど。
それでも、お前がこの世界に存在してくれた今を、祝いたいから。
だから。
「何でも、お前の願いを叶えてあげる」
それは今日だけの魔法。
幻影と言う名の永遠の幻。
それでも一瞬でしかないけれど、幸せを願わずにはいられない。
「何が欲しい?」
叶えてあげる。
何でも、お前が望むモノを全て。
今日だけしか叶えることの出来ない、幻影。
火影でも…優しくお前を守る母親でも…望むならば全てを今だけは叶えてあげる。
「え…、じゃぁ、俺ね…」
何かを思いついてナルトは極上の笑みを浮かべる。
「カカシ先生と一緒にいたい」
「………ぇ?」
眩しくて、見続けることさえ敵わないような笑顔で。
「カカシ先生ってばいっつも仕事が忙しくって…だから、1日中カカシ先生と一緒にいられるマホーをかけて」
それが今一番欲しいモノ。笑ってナルトはそう言う。
「……」
カカシの手から星の付いたスティックが落ちる。
「……ナルト」
カカシはナルトをギュっと抱き締めた。
魔法なんかいらない。
触れる、暖かな唇。
「……カカ…センセ…ん」
だって魔法なんかいらない。
傍にいることが幸せだから。
あなたがいることだけが、私の幸せだから。
それだけで、ほら幸せ。